注目論文の解説

金属燃料ナトリウム冷却RFBBの概念成立性

2021年8月14日

要点

  • 金属燃料ナトリウム冷却回転型燃料シャッフリングブリードバーン高速炉[用語1](RFBB-MS)の概念成立性が明らかになった。
  • これまでに開発されてきた高速炉の技術をベースにして、天然ウランを燃料とし、燃料再処理施設を用いず、ウラン資源の有効利用が可能で使用済み燃料の発生が少ない原子炉の実現可能性が示された。

概要

金属燃料ナトリウム冷却回転型燃料シャッフリングブリードバーン高速炉(RFBB-MS)の成立性を、すでに開発されている金属燃料ナトリウム冷却高速炉技術をベースにしたデザインで検討を行った。天然ウラン燃料からなる燃料集合体を炉心外周部に装荷し、一定期間ごとに隣接する集合体の位置に移動させながら中心部近くへ移動させ、その後外周部方向へ移動させ、最後に使用済み燃料として取り出す回転型燃料シャッフリングを行った場合の臨界性、出力分布、燃焼特性を、中性子輸送モンテカルロ計算及び炉心燃焼計算により行った。その結果、適切なシャッフリングパターンを用いることで、原子炉の出力分布が時間とともにほとんど変化しない平衡燃焼状態が実現でき、さらに取出し燃料の高い燃焼度が期待できることが明らかになった。本研究は、東京工業大学、ベトナム原子力研究所、モンゴル国立大学の国際共同研究として行われた。

研究の背景

これまで開発されてきた高速炉は常に燃料再処理施設とセットで利用することでウラン資源の有効利用を図るものであった。ブリードバーン高速炉は、再処理施設を用いず、天然ウランまたは劣化ウランを燃料とし、自己の炉心内で燃料の転換と核反応によるエネルギー発生を行い、高いウラン利用効率を達成する新しい考え方の高速炉である。ブリードバーン高速炉の概念の一つとしてCANDLE燃焼高速炉[用語2]がある。この炉概念は、ウランの転換と核分裂を行う領域が炉心内の軸方向に自律的に移動する特徴を有する。この概念は優れたものであるが、使用済み燃料の取出しと新燃料の装荷を炉心を輪切りのように分割して行う必要があるため、炉心構造がこれまで開発されてきた原子炉と異なり多くの開発要素があるという課題があった。回転型燃料シャッフリングブリードバーン高速炉(RFBB)では、燃焼波の移動方向を炉心横方向とし、燃料集合体を燃焼波の移動方向とは逆方向かつ同じ速さで移動させることで、核分裂が起きる燃焼領域の位置を定常化させる。その際新燃料の燃料集合体を炉心外周部に装荷し徐々に炉心中心部に移動させたのち、外周部に移動させ最後に使用済み燃料として取り出すことで、炉心の出力分布が変化しない平衡燃焼状態を実現する(図1)。この概念は、これまで開発されてきた高速炉の構造を大きく変えることなく適用が可能であり、シャッフリングの間隔やパターンをかえることで燃焼特性を変えることができるという自由度を有する。これまで、金属燃料鉛ビスマス冷却材でRFBBが成立することは示さていた。本研究は、確立した技術である金属燃料ナトリウム冷却高速炉でのRFBBの成立性を示すことを目的とした。

図1 Y-89の中性子飛行時間スペクトル
図1 回転型燃料シャッフリングブリードバーン高速炉(RFBB)の原理

 

研究の方法

ナトリウム冷却高速炉心デザインとして米国で開発中のS-PRISMの設計をベースに解析を行った。解析には中性子輸送モンテカルロコードSERPENT及びENDF/B-VII核データライブラリーを用い、炉心内の中性子束分布、出力分布、原子核数密度分布の変化を求め燃焼特性の評価を行った。燃焼シャッフリングパターンは図2に示すパターンを適用した。解析及び結果の分析は東京工業大学、ベトナム原子力研究所、モンゴル国立大学の国際共同研究として実施した。

図1 Y-89の中性子飛行時間スペクトル
図2 燃料シャッフリングバターン(炉心の1/6の部分を表している)
Van Khanh Hoang, Odmaa Sambuu, Jun Nishiyama, Toru Obara, “Feasibility of Sodium-Cooled Breed-and-Burn Reactor
with Rotational Fuel Shuffling”, Nuclear Science and Engineering, published on line, July (2021).
DOI: https://doi.org/10.1080/00295639.2021.1951063

 

研究成果

解析の結果、シャッフリングの間隔を適切に設定することで、本炉心概念で出力分布がほぼ変化しない平衡燃焼状態の実現が可能であることが明らかになった。また平衡燃焼状態において高い燃焼度が期待できる一方、燃料要素のDPA[用語3]も大きくなり現在の被覆管での実績値を大きく超えることからこの問題の解決が課題であることも明らかになった。高速炉EBR-IIで開発されたメルトリファイニング[用語4]プロセスを適用することでこの課題が解決されることが期待され、現在研究を進めている。

用語説明

[用語1] プリードバーン高速炉:
燃料の濃縮や再処理を必要とせず、天然ウランや核分裂性物質の割合が天然ウランより少ない劣化ウランを燃料として使用し自己の炉心内で核分裂性核種の生成と核分裂連鎖反応を行う高速炉
[用語2] CANDLE燃焼炉:
ブリードバーン高速炉の一種で、天然ウラン等が装荷された炉心領域へ流れてくる核分裂連鎖反応によって発生する中性子によって核分裂性核種の生成を行い核分裂連鎖反応を起こさせる高速炉。核分裂連鎖反応を起こす領域が連続的に炉心軸方向に移動する特徴を有する。
[用語3] DPA:
燃料被覆管の中性子による損傷の程度をあらわす指標
[用語4] メルトリファイニング:
取り出した金属燃料を一度溶かした後再形成するプロセス

論文情報

掲載誌 :
Nuclear Science and Engineering, published on line, July (2021).
論文タイトル :
Feasibility of Sodium-Cooled Breed-and-Burn Reactor with Rotational Fuel Shuffling
著者 :
Van Khanh Hoanga,*, Odmaa Sambuub, Jun Nishiyamac, Toru Obarac, a Vietnam Atomic Energy Institute,  b National University of Mongolia, c Tokyo Institute of Technology
DOI :
https://doi.org/10.1080/00295639.2021.1951063